「Bombshell」という映画はご存知でしょうか?(以下、邦題:スキャンダル)
この間のアカデミーにノミネートされた作品の一つで、映画業界では注目の一つになっていますね。
スキャンダルは2016年にアメリカで実際に起こったセクハラ騒動を元に映画化されています。
FOXニュースの創設者であり、テレビ界の帝王ロジャー・エイルズに対して、
人気女性キャスターからの告発をテーマにしたものとなっています。
今回注目する登場人物として、
人気女性キャスター
・メーガン ケリー役:シャーリーズ セロン
・グレッチェン カールソン役:ニコール キッドマン
FOXニュース創設者
・ロジャー エイルズ役:ジョン リスゴー
この3名について話を進めていきたいと思います。
日本ではまだ公開されていませんので詳細は私もあらすじしか知らないのですが、、、
まず、この映画はストーリーも面白そうですが、
なんと言っても実際の人物に似せた特殊メイクを行なっているということに注目しています。
そしてその特殊メイクを担当されているのが特殊メイク界では誰もが称える存在、KAZU HIRO氏。
私の頭の中では ” Legend KAZU “ とインプットしております。(以下、カズさん)
カズさんは以前にも映画「Darkest Hour」(邦題:ウィンストン チャーチル)でアカデミー賞ノミネート、さらに受賞も果たしております。
まだ観ていない方、
ゲイリー オールドマンをウィンストン チャーチルに変化させた特殊メイクは必見です。
今回の作品「スキャンダル」でもノミネートしていますのでまた受賞までいくことを応援しております。
今回の特殊メイクでは、
シャーリーズ セロン、ニコール キッドマン、ジョン リスゴーの3方に行なっているそうです。
こちらのウェブサイト Interview Magazine でカズさんのインタビューが載ってましたので
今回はこの記事を元に紹介をしていきたいと思います。
少ないながら私も特殊メイクを仕事にしている身ですので、
本文を私なりに解釈させて書かせて頂きますので多少の違いは出てしまうかもしれません。
ご了承ください。
① シャーリーズ セロンの特殊メイク
まずはメーガン ケリーに扮するシャーリーズ セロンです。
上の写真は既に特殊メイクを施したシャーリーズ セロン。
まずメーガン ケリーという方はアメリカでは誰もが知るとても有名なキャスターであるらしく、
今回本人を演じるにあたり、両者の違いをなるべく近づけるように尽力を注いだようです。
有名な人を演じる場合は確かにそのギャップが邪魔をして入り込めないこともあります。
そしてそのギャップを埋める役作りを惜しまない環境は本当に素晴らしく、
良い影響を頂ける映画となり、ストーリー以外でも感動出来る作品になりそうですよね。
メーガンケリーとシャーリーズセロンの違いはたくさんありますが、
その中でも、「鼻」、「あご」、「まぶた」「コンタクトレンズ」に注視して特殊メイクをしたそうです。
(記事下に添付した動画内では”えら”も特殊メイク箇所となっております。)
まずは鼻。
全体ではなく、特に小鼻や鼻の穴の大きさ。
シャーリーズセロンの小鼻は小さく、メーガンケリーの子鼻は横に広がっているため、鼻穴の見え方に違いが大きいです。
この鼻の印象を変えるための作業は全て書かれていませんが、
最終的にはノーズプラグとノーズテープを使用したとあります。
これはストレートな特殊メイクではなく、鼻の中に人工器具を入れ鼻を膨らませて形を変える方法です。
(インタビュー動画内では鼻先に特殊メイクをしているような情報もありました。)
カズさんのSNSでも紹介がされています。
Nose plug for Charlize Theron as Megyn Kelly for Bombshell. I designed in Zbrush and printed in 3D printer due to tight schedule and faster modifications. #charlizetheron #bombshell #noseplug #3dprinting #zbrush @charlizeafrica @bombshellmovie @zbrushatpixologic @formlabs pic.twitter.com/HJDAw2CblF
— Kazu Hiro (@kazustudios) January 22, 2020
鼻の中の型を取り、本人にぴったり合うようにデジタル造形で設計されたノーズプラグ。
ものすごくシンプルな方法ではありますが、私の知る限りここまで丁寧に拘って
作りあげる例は初めてです。
特殊メイクは基本的には顔の上に施していきますのでモデルの元の顔は変えられない制限付きで始まります。
しかし、この人工器具は外からではなく、
内側から形を変える今までの固定観念を覆す特殊メイクだと感じました。
ノーズプラグで目的の形に変化させることも凄いのですが、
鼻の機能として息と声に支障が出ない設計をするところも逆に恐ろしい人ですね(笑)
次はあご。
メーガンケリーのあごはシャーリーズセロンよりも長く、角張った形です。
こちらは詳しい情報は書かれてないですが、特殊メイク用人工皮膚を貼って変化させていると思われます。
そしてまぶた。
記事ではこのまぶたの変化が一番大変であったと書かれています。
特殊メイクの一番の弱点はまぶたの形を変えることで、
今回のような綺麗な肌質をキープした特殊メイクは本当にハードルが高いものです。
シャーリーズセロンのまぶたは深く、目がぱっちりしている。
それに比べメーガンケリーはまぶたに厚みがあるタイプです。
特殊メイクとしてはシャーリーズセロンのまぶたの上にさらに人工皮膚まぶたパーツを貼って完成するといった作業です。
一見他の箇所と似た作業かと思われるかもしれませんが、
目元の皮膚はよく動き、厚みも薄く、少しの支障で表情に違和感が出たり、
異様なシワが入ってしまったりとかなりデリケートな箇所です。
完璧な人工皮膚があったとしても貼り方次第でも失敗になったりしてしまうのです。
そんなデリケートな部分なので本番までの間、テストを重ねたと書かれています。
日本ではテストにかける時間と予算の関係上毎度一発勝負の世界となっております。
(これは映画業界の問題ではなく日本という国から見る経済の問題でもあります。)
そして最後はコンタクトレンズで目の色を変えているということです。
現在は行なっていないそうですが、カズさんは数年前まではコンタクトレンズの制作までも手掛けていたそうです。
本当に恐しいお方です・・・。
② ニコール キッドマンの特殊メイク
次はグレッチェンカールソン扮するニコールキッドマン。
特殊メイク箇所としては、「鼻」と「あご」です。
まず鼻には人工皮膚を貼り、特殊メイクを施します。
グレッチェンカールソンのあごは中央にくぼみがあり丸い形に対して、
ニコールキッドマンは尖ったシャープなあごをしています。
この辺りを注視して特殊メイクで変化させているようです。
鼻に関して詳細は書かれていないので正しくはわかりませんが、
画像で比べてみますと、鼻すじの幅、小鼻の膨らみ加減に変化が見られますね。
エピソードとして、
当初、頬にも特殊メイクパーツを貼る予定だったらしいのですが、
ニコールキッドマンの意向で、鼻とあごのみとなったそうです。
この辺りはどういう経緯かはわかりませんが、
役者と特殊メイクの方向性を話し合える環境も面白いですね。
今回はそうではないかもしれませんが、
特殊メイクをすることは役者の方にとって良い影響も多いですが、
その分負担になってくる部分もありますのでそれぞれが何を優先するのかを第一に決めておかないとけないですよね。
③ ジョン リスゴーの特殊メイク
John Lithgow stars as ‘Roger Ailes’ in BOMBSHELL. Photo Credit: Hilary Bronwyn Gayle.
最後はテレビ界の帝王ロジャーエイルズ扮する、ジョンリスゴー。
まず上の写真も既に特殊メイクされた状態です、この自然な特殊メイクはまさに神業です。
ジョンリスゴーは当初、過去に悪い経験をしたことから特殊メイクをすることには懐疑的だったそうです。
しかしカズさんの技術を見たジョンリスゴーはこの特殊メイクの素晴らしさに感動し、
それ以後好意的に毎日3時間ほどの特殊メイクをしていたそうなのです。
これは本当に価値のある素晴らしいお話ですね。
そして特殊メイクをされている際、ジョンリスゴーはその時間にトランプについての本を執筆し、
映画が終わった後出版を果たしたそうです。
カズさんもさることながらこのジョンリスゴーという人物の情熱も相当凄いものですよね。
監督から特殊メイクは、ロジャーエイルズとジョンリスゴーのハイブリッドでいきたいと意向があったそうです。
(おそらくそれは両者の顔を活かしつつ間を取る方向性だと思います。)
両者の顔には違いがありすぎるため、
特殊メイクの範囲を広くしてガラッと変化させる必要があります。
ロジャーエイルズには特徴的な形、大きな鼻、ブルドッグのような顔まわり、厚みのある首があり、
それぞれにあった人工皮膚が作られています。(耳たぶも)
SNSで本人との変化具合を粘土彫刻段階で紹介してくれています。
Bombshell John Lithgow @jalithgow as Roger Ailes. Sculpture WIP @bombshellmovie #bombshell #bombshellmovie #sculpture #makeup #specialeffectsmakeup #prosthetic #johnlithgow pic.twitter.com/T5w1MEQo6v
— Kazu Hiro (@kazustudios) January 19, 2020
目から上は本人のままのようで、
生え際はロジャーエイルズに似せるため、なんと前髪を剃って役作りしているそうです。
変身メイクはやはり特殊メイクだけでなく、ヘアメイクさん、役者本人との連携も多いに影響すると実感しました。
インタビュー内容の一番大事なところ
Bombshellのツイッターアカウントでも色々と記事と写真載ってます。
Congratulations to Kazu Hiro and his incredible team for their Best Make-up win at the Chicago Indie Critics Awards for #BombshellMovie! pic.twitter.com/SH3Igl9x0B
— Bombshell (@bombshellmovie) January 7, 2020
特殊メイクは、「変化を大きく=不自然になりやすい」になるのですが、
このメイクアップ、不自然さは皆無ですね・・・もう芸術品として残すべきですね。
最後にこのインタビューで述べられている特殊メイクの本質である内容を添付しておきます。
When I study faces, I believe that their soul reflects the surface. What they look like will affect who they are, and who they are affects what they look like. 出典:Interview Magazine
役者が演技を通して何かを伝えるとき、彼らのなかにある内面(魂)が彼らの表面上(見た目)にも影響を与えると綴られています。
演じる側の覚悟と情熱で生まれた「芯」の部分は間違いなく目に見えない圧ともなって感動を与えますよね。
これは有ると無いとでは大きく差が出ると確信的に思えることです。
シャーリーズセロンのインタビューの中にも、
そのエピソードがあり当初は変装を指示されていなく、
シャーリーズセロン自身が特殊メイクを使った役作りを希望したそうです。
彼女は演技をしているとき、いつも見ている自身の顔では
どうしても目標とのギャップがありその苦しみも綴っていました。
やはり演じることはまず目標の人物にどれだけなりきれるかが重要であり、
その重要な役目を担ったのがカズさんによる特殊メイク技術でした。
正確な効果のある特殊メイクは役者にとってもその映画にとっても、
成功させるための重要な要素として位置付けしてくれるとても良いインタビューの内容でありました。
日本の業界ももっと裏事情を解禁してもらえたらさらに盛り上がるのではとも思いました。
現在はテクノロジーの拡大で特殊メイク業界は低迷していますが、
カズさんの関わった映画でまたさらに業界の需要が変わることを望んでいます。
やはり何事もバランスよく共存して欲しいと強く思います。
映画スキャンダル日本公開は2月21日(金)!
ストーリーも楽しみではありますが、
特殊メイク業界人の私は動いている特殊メイクにさらなる感動を期待しております。
それでは、良い造形ライフを! ーGoushiー
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