特殊造形 キャラクターにおける3つの構造を紐解く

彫刻

特殊メイク、特殊造形業界では世界中のスカルプターが日々新しいキャラクターを作り続けています。

立体以外の業界でも魅力的なキャラクターが沢山いて、SNS等での投稿を見るのは楽しいです。

 

そのキャラクターの多くはこの世界に存在している(していた)生き物や物体からヒントを得てデザインされています。

その上でリアリティは特に特殊造形デザインにとって不可欠な要素であり大きなテーマの一つになっています。

 

 

今回は実際にキャラクターデザインをする場合、

キャラクターとはどういう仕組みで成り立っているのか紐解いていこうと思います。

上手にデザインされたキャラクターをいろいろ見ていくと、

大きく分けて3つの要素で成り立っていることに気付きました。

 

それは、

 

1 基礎の形・・・ベース形状

2 バランス・・・印象や雰囲気作り

3 演出表現・・・個性の強弱

 

というものです。

まずはベース形状を選び、どういった印象にしたいのかバランスを決めます。

そして最後にそのキャラクターの特徴を追加していくといった流れでデザインをしていくということです。

勿論さらにかなり細く分析すると全ての要素が絡み合ってキャラクターが出来ているので今回はシンプルに捉えてみました。

 

それでは、順番に解説していきます!

悪魔

 

 

 

1 基礎の形

基礎

基礎の形とは作るキャラクターのベースに選んだ生物の形状です。

「骨格」や「筋肉」そしてその「表面に影響する形」です。

キャラクターを彫刻していくとき、必ずベースとなる生物の形を生かして造形していきます。

特に特殊メイクでは人の顔にメイクを施すので人間の基礎の形を理解することから始まります。

もし人間ではなく、架空の生物であるドラゴン等を作りたいと思えば、

ワニのような爬虫類の骨格、筋肉の構造を理解した上で造形してきます。

 

基礎の形である骨格、筋肉はそれぞれを詳細に覚えることも彫刻していくには大事ですが、

それぞれに皮膚が覆った状態の形、表面の凹凸はどんな形なのかということの方が重要なポイントになります。

 

人間の場合ですとこのような形が基本形となります。

彫刻

この造形物は右顔半分は形の切り替わり(稜線)が分かり易いように作りました。

人間をベースにしたキャラクターを彫刻するときにはこの稜線の形を入れた上でデザインすることが基本となります。

デザインによっては人間の形と他の生物や物体を組み合わせて作っていきます。

いろんな映画や造形作品の良いキャラクターを見ていくと必ずこの基礎の形が表現されていることにも気付きます。

 

 

キャラクター彫刻において基礎が大事であると耳が痛いほどよく言われます。

私もそうでしたが特に彫刻を始めた初期の頃は自分の勝手なイメージ、まだ磨かれていない感覚に頼ってしまい基礎の形を疎かにしてしまいがちになります。

基礎の形を学ぶ前はなかなか上手くデザイン出来ず、私には彫刻は向いていないのではと思うこともありました。

そこでいろんな彫刻作品を模刻していくうちにこの基礎の形が必ず入っていることに気付いたとき、

彫刻の技術が格段に上がったのを経験しました。

 

この基礎の形を使わずして本当の良い形は作れないと気付きました。

 

 

 

2 バランス

彫刻

造形においてバランスはいろいろなことに関係してくる最も重要な要素でもあります。

今回はその中でも「それぞれの形の間隔(位置関係)」「奥行き」であるXYZ軸のバランスに注目します。

そしてそのバランスを調整することでキャラクターの「雰囲気」「印象」を決める大事な技術となります。

 

 

人があるキャラクターを見た時誰しもが何かしらの印象、先入観イメージを受けると思います。

この初めに受ける印象は目立つパーツである目や鼻や口などの各部の位置関係によることが多くあります。

もちろん服装や髪型等もありますが彫刻の際そのパーツは後の作業なので、

元から持っている変えられないパーツで見ていきます。

 

例えば、目と眉毛の位置が近い人と離れている人では、どちらかというと近い方が凛々しく見えますよね。

逆に離れている方が優しく見えたりもします。他のパーツの影響もありますが。

奥行きに関しては、単純に目元が深ければ恐い印象になったりと。

 

 

そして人の顔というのは基礎は皆同じ構造ですがこの間隔XYと奥行きZのバランスが違うことで顔に違いが出ます。

キャラクターデザインをする際はそのキャラクターをどのような印象にするのかはすごく重要です。

格好良い顔をデザインしたい場合には格好良くなるバランスというものがあり、もちろん可愛い顔になるバランスもあります。

例えばこのパーツとそのパーツの位置を調整することで格好良くなる等の知識が必要です。

 

バランスにおいてまず知ることはパーツの位置関係で受ける印象の違いと、

奥行きがあることでの陰影による影響です。

 

陰影は奥行き、立体があることで感じることが出来ます。

その陰影から受ける印象も彫刻を上手く見せる技術で欠かせないものです。

 

 

骸骨

 

 

また、陰影の数にも注目していくとこちらもキャラクターの印象に大きく関わってきます。

 

陰影の数が多い ⇨⇨⇨ シリアス、荘厳、リアリティ、怖い、劇的、緊張 …..etc

 

   陰影の数が少ない ⇨⇨⇨ コミカル、ライト、可愛い、安心、共感、ゆるキャラ …..etc

 

 

このような陰影の効果を知っていると彫刻でもキャラクター作りに役立ちます。

バランスはどこに影を落とせば格好良くなるのか、怖くなるのか、または可愛く見せるにはどんなパーツの位置関係なのか、

どこの陰影を調節すれば目標の印象になるのかを知っておくことが大切です。

 

また、凄くリアルで誰もが可愛いと感じるキャラクターを作ろうとする場合、そこには相反する問題があることも分かります。

可愛さや格好良さは人によって感じ方が違いますがリアルさを追求する場合、

ある程度陰影の数は多くなるのでそれの効果による印象や雰囲気を踏まえてデザインをしていきます。

 

 

特殊メイク、特殊造形の世界では陰影の数が多いものが主流であり王道なので、

その印象を目標にしていくことでキャラクターが成立しやすくなります。

 

日本での一般的な流れは可愛いキャラクター文化が強いです。

ポケモンやゆるキャラ等の可愛さ、安心感、ライトな形が多いですよね。

ターゲット層や日本の歴史にも関わっていると思うのですが、

造形的にはもっとリアルな形のポジションの活躍場が増えてほしいですね。

 

 

バランスというものに関してはかなり奥が深く様々なことに当てはまります。

相反する要素をどちらも取り入れつつ、バランスを少しづつ探っていくことで新しいキャラクターデザインを生み出すことも可能になっていきます。

まだ誰もやったことがないバランスを探すこと、この辺りがキャラクター彫刻の醍醐味ではないかと思っています。

 

 

 

3 演出表現

壮大

演出表現とは大きく分けて、「強調」、「変形」、「融合(追加)」の3つになります。

そしてこの3つはそれぞれに対してもバリエーションが無限にあり、

この要素がスカルプターの個性の強弱の表現場所であると思います。

 

まずはいくつかの参考例と共に説明していきます。

 

 

【参考例  1】

造形

この彫刻の3つの構造を紐解いていきます。

基礎の形は人ベースであり、バランスも各部 人に近いデザインになっています。

そして演出表現の部分では特に要素が多く、目の拡大、アイホールの強調、シワの強調、

ほうれい線周りの強調と変形といった表現になっています。

ライティングの効果も加わり陰影の美しさが素晴らしいですね。

特殊メイク、特殊造形のキャラクターはこの強調と変形を使用した表現が多く見られます。

 

 

【参考例  2】

特殊造形

こちらもベースは人、バランスも人に近く【参考例1】と似ています。

演出表現のバリエーションだけの違いで全く違ったデザインに変化します。

(表情やパーツの形の違いもありますが。)

 

ただ演出表現の要素を入れすぎるとリアリティからかけ離れていくので目的によっては注意が必要です。

この彫刻では顔の中心にリアリティが無くならない程度の強調表現をして、

顔周りの形には変形と融合をかなり多く入れています。

その分リアリティが失われてしまうので質感やテクスチャーの部分でリアリティを補ってバランスを取っています。

 

 

【参考例  3】

造形

この特殊造形は2008年頃に私が作ったものになります。

ベースは人、バランスは口元が下がったデザインです。(顔のみの場合)

このデザインは大胆な演出表現になっていてリアリティのあるキャラクターではありません。

さらにリアリティを失う要素としてベースの形の稜線が少ないので陰影も少ないことが分かります。

当時は稜線の技術が足りていなくて表面のテクスチャーや演出表現に頼っていた時期でした。

もちろん特殊造形にはリアリティが全てではない時もありますので、

意図的に演出表現が突出したデザインも目的によっては必要です。

立体物ではありませんが漫画のキャラクター等も演出要素を強くして個性を表現しています。

 

 

 

彫刻

 

このようにいろんな特殊造形作品を観察していくと演出表現にはベース形状とバランスよりも遥かに多い無限のバリエーションがあります。

ベースとバランスにも個性は出ますが特に演出表現の部分によって作者の個性が大きく発揮されてきます。

ただ、無限にあるバリエーションといえど全てが上手く使えるものではありませんが。

 

 

そうして3つの要素が深く関係し合い一つのキャラクターの形を作っていきます。

一見複雑に見える上手な彫刻も3つの要素に分けて見ていくと、

その彫刻の上手さの秘密を知ることが出来ます。

さらに、取り入れたい部分や個性が強すぎる注意する部分等も分かり、デザインの参考にもなると思います。

皆さんも自分の気に入っている造形作品の魅力を一度分析してみては如何でしょうか?

 

王冠

それでは! ーGoushiー

彫刻

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