マジック・ザ・ギャザリングというカードゲームをご存知でしょうか?
近年ポケカやワンピース等カードゲームのブームがありますが、
その中でもマジック・ザ・ギャザリングは世界で初めて誕生したトレーディングカードゲームです。(以下略称:MTG)
実は私はこのMTGとは中学生の頃に出会い、現在に至るまでの自分の感性のベースとなっているほど影響を受けています。
このMTGと他のカードゲームとの大きな違いの一つに絵画のようなリアルなクオリティの高いイラストが特徴でして、私にとってはゲーム性よりもこれらのイラスト作品を鑑賞することが何よりも刺激のあることになっています。
当時は好きなイラストをコレクションすることに必死になっていました。
今は1枚から購入出来るカードショップがあるので当時の自分からするとウハウハです。
MTGのイラストは世界のトップのファンタジーイラストレーターが何人も参加していてカードからいろんなデザイン、アイデアなど様々なことを教えてくれます。
コンセプトアート業界や造形業界にとっては知らないと損なほどの資料の山です。
目の肥やしにもなり、ゲームでコミュニケーション性抜群。
皆さんもMTG沼に入りましょう笑
周りになかなかいないので募集中です(^^
そんなこんなで今回のメインはMTGに出てくるキャラクターを作ったという内容です。
MTGイラストレーターの中で一番お気に入りの「Mark Zug」という方がいます。
この方が描いたカード「隆盛なるエヴィンカー」というイラストの顔をモチーフに造形しました。
このカードが発売したのは私が中学生の頃でこの頃からこの絵が好きで今になってようやく立体化することが出来ました。
とは言っても少しアレンジも入っております。
拡大するとこんな格好良い顔です(^^
それではご紹介していきます!
隆盛なるエヴィンカー 丸いフォルムとの戦い
エヴィンカーの原型彫刻
今回使用する粘土は海外製の水粘土になります。
ラグナクレイ-Laguna clay-という特殊メイクの世界では水粘土はこれ一択というくらい滑らかな良い商品です。
少し前にケースの見栄えも変わり、日本には無い楽しい雰囲気のパッケージです。
こういったところがアメリカのニクいところですよね〜。
ケースの中身は2つのブロックに分かれていて1ブロックあたり約11キロあります。
それでは粘土彫刻の開始です!
まずはシルエットラインを意識しながらざっくりとしたブロッキングをしていきます。
エヴィンカーの難しいところはシルエットラインに抑揚が少ないので微妙な凹凸具合を捉えていかないといけません。
顔はかなりの強面に対して丸いシルエットという通常相反する要素で構成されています。
この造形は弊社造形スクールのデモとして作っていたので、
骨格や筋肉のスタンダードな表現彫刻も必要でした。
なので元の絵に入っている演出的な形(フィクションフォルム)をどこまで残すかが難しいところでした。
そして一先ず、第一関門の安心ステップ(ここまで来たらあとは微調整だけ)まで辿りついた状態の写真です。
造形あるあるなのですが、この安心ステップは次の日に見ると安心ではなくなります笑
私の弱点でもあるのですが、かなり意識しないとフォルムラインのダイナミックさが低い状態で安心ゾーンに入った気になってしまいます。
フォルムの印象で勢いや流れがあることをダイナミズムと呼んでいます。
ダイナミズム要素が入っていると生き物としての躍動感や生命力に溢れた、存在感が出るなどはっきりと力がある印象に変わります。
エヴィンカーはヒトが持つフォルムで出来たクリーチャーなので、主に肉感や骨格の形などでダイナミックさを表現出来ます。
現状ぱっと見エヴインカーに近づいてはいますが、このまま微調整して仕上げに入ってしまうとこじんまりとした印象になってしまいます。
今回は次の日に早めに気付くことが出来たのでラッキーです。
その日からエヴィンカーのバランスを崩さないように、ダイナミズム要素も入れつつ、
スクールデモとしてのヒトのアナトミーから外れすぎないように微調整しながら造形していきます。
エヴィンカーの牙は一旦水粘土で作り、サイズ、形が決まったら型取りしてグレーキャストに置き換えます。
そしてこちらが完成した彫刻です!
ダイナミズムをどんどん入れていった時に、力士像のような印象を加えたくなり途中からその要素も加えていくことになりました。
比較
ダイナミズムと力士像要素を加えたのが左側、右側が元々のフォルムになります。
元々の彫刻でも顔としては成立していると思いますが、陰影の入り方や肉感の位置などを調整するとキャラクターは同じでもまた違った方向性を見出すことが出来ます。
初めにデザインとして決まったものがないときなどのプラスアルファ要素としてもよく使っています。
型取り シリコーン+FRPジャケット
型取りはスタンダードなシリコーンとFRPの組み合わせで取っていきます。
シリコーンをかける前にまずは切金板というもので型のフランジ部分を作るための壁を作ります。
仕上げのテクスチャーはフィルタースポンジだけで作っています。
歯や牙の場所にはソケット状に窪ませて型取りしていきます。
今回使用するシリコーンはIS-CRN40です。
目元はかなり深いので塗り残さないようにしっかり塗っていきます。
途中からシリコーンKEー12でカバーです。
シリコーンはいろんな種類がありますが、それぞれがそれだけで完璧なものはないので目的によって使い分けて使っていきます。
今回は全部で5〜6層あるので後半層は白いKE-12です。
シリコーン層が完成したらFRPでジャケットを作っていきます。
彫刻にアンダーカット部分が多いので左右でジャケットを分ける準備します。
分けたジャケットの色わけは意味はないですが、気分は上がります。
浮き防止ピンとボルト固定。
型取りが終わったら全部外してクリーンナップ。
写真は型の中を覗いたものです。
彫刻した粘土の残骸です。
水粘土はこの時点で任務完了です。
次は型にラテックスを塗り、ウレタンを流し込んで成形していきます。
陰影強度を上げたペインティング
間の工程が飛んでしまいますが、次の写真は成形したものを塗り分けした段階です。
塗料はアクリル系のアルコールで溶けるものをよく使っています。
塗装チェックポイントは、
・肌のむら感を出す
・全体の陰影のバランス
色のむらはリアルな肌色を表現するための要素、陰影は彫刻で作った稜線の凹凸を魅力ある見え方にするための要素です。
陰影の濃さを調節しないと全体がのっぺり見えたり、存在感が薄くなったりします。
エヴィンカーのイラストは特に陰影が濃く仕上がっているので立体で表現する時にもいつもより濃くする方向でいきます。
一旦歯を置いてみて全体の色味チェック、さらに目の色ベースも塗ってバランスをみます。
塗料はホルベインのアクリリックインクとリキテックスのリキテックスリキッドを使っています。
目の塗装はこの塗料とメディウムをミックスして半透明塗料にして作っていきます。
歯の付け根も馴染ませ、完成に近づいてきました。
最後に完成写真をもう一度。
「隆盛なるエヴィンカー」 力士像 mix
まだまだ改善点はありますが、エヴィンカーの恐ろしさは表現出来たかなと感じてます。
MTG世界には素晴らしいフォルムのクリーチャーがデザインされているのでまた今後も作っていきたいと思います。
今年ももうすぐ弊スクールの特殊造形の授業が始まります。
今年のデモは人間ベースから少し離れたクリーチャーを検討中です。
またその経過は先にSNSでアップしていきますのでチェックしてみてください〜。
それでは皆さん、良い造形ライフを! ーGoushiー
コメントを残す