2017年冬、「go-Shintai ー御神体ー」という 特殊造形アート を制作しました。
【go-Shintai ー御神体ー】
H680mm×W480mm×D280mm
制作のきっかけは弊社特殊メイクスクールにて彫刻デモンストレーションから始まりました。
この時のスクールカリキュラムは特殊造形で一つのキャラクターを作っていくというものでした。
水粘土を使って彫刻していき、シリコンで型取り、ラテックスや樹脂で成形していく流れです。
原型制作
まずは水粘土での原型制作から始めます。
原型制作とは元になる形を作るという意味です。
今回の原型は粘土で作った形がそのまま最後まで同じ形で表現されていきます。
特殊メイクスクールでの彫刻風景。
大きな形、中間的な形が大体終わり、細かいシワや肌の質感を彫刻している段階です。
スクール授業の合間で終わらず、アトリエ自由廊に持ち帰り仕上げることに。
今回の彫刻デモンストレーションは今まで試したことがない皮膚表現の造形に挑戦する私自身の個人的な衝動もありました。
その皮膚表現の挑戦とはヨレた皮膚が重なってシワが出来ることにより、複雑な陰影やコントラストが作られて神秘的な印象を与えることにあります。
テーマとしてはヴァンパイアとマミーの合いの子という設定です。
水粘土原型の完成写真がこちらになります。
型制作
原型の彫刻が完成して、次はシリコンを使って型取りをしていきます。
今回は型取りもいつもの方法ではなく、試してみたい実験的なことを取り入れて行いました。
写真は粘土原型に1層目のシリコンをかけた状態です。
シリコンが黒いのは専用ピグメントで着色してあり、次の成形作業で型の中を見やすくするためです。
実験的な部分というのは、付加タイプのシリコンで積層させて型を作れないかということです。
専門的なことになりますがシリコンという材料には縮合タイプと付加タイプというものがあり、
この付加タイプで型を作ると丈夫で長持ちする型が作れるのです。
ですが一番単純な型作りである1層1層重ねて型を作る方法が難しいという難点があります。
(シリコンの種類によっては可能なものもありますが私が扱っているものではやりづらい種類なのです。)
そこで今回は付加タイプのいろいろな種類のシリコンを層ごとに使い分けてやってみることにしました。
1層目と2層目はこの黒いシリコンで、特殊メイクで使う人工皮膚用のシリコンを使用してみました。
このシリコンの利点は程良い粘度(ねばりけ)で硬化が早く硬化後もある程度フレキシブルな硬さです。
そして実際に使った感想は、、、
型取りには使わない方が良い!
特に1層目には。
駄目だった問題点①
目には見えないくらいの大量の気泡が原型彫刻の表面に出来てしまったことです。
このシリコンは独特の粘りけがあるので自然に気泡を抜くのは難しいのだと思います。
幸いなことにその気泡はかなり極小で、樹脂で成形後アルミたわしなどで軽く磨けば綺麗に落とすことが出来ました。
駄目だった問題点②
シリコンが硬化し出すまでの可使時間があまりにも早かったという点。
硬化が早いということはシリコン内の気泡が抜けにくいため型もその分強度が低くなります。
今回は原型を分割せずに全てを一気に塗り込んだので時間が多少かかったこともありますが、
1層目はとても肝心な作業なのでもう少し可使時間に余裕があれば良かったです。
そして3層目からはこの変わった色のシリコンで補強していきます。
このシリコンは特殊メイクの土台作りで使用する顔の型取り用シリコンです。
写真は青と緑が写っていますがどちらも同じ顔型取り用で、少し性能に違いがあります。
顔の型取り用シリコンは Smooth-On 社製のボディダブルという付加タイプのシリコンです。
ボディダブルシリコンは前々から型作りには応用させて使用していましたが、
今回は本格的に使ってみて今後の決断材料にしようと考えていました。
結果的には、硬化が早く作業も早く終わり強度もあり今後も使用出来そうなシリコン材料になると実感しました。
注意点①
先ほどのシリコンより可使時間が短いので2、3層目以降からの使用をおすすめします。
塗っている最中に固まってしまうと型取りの失敗に繋がりますので、作業はスピーディーに行います。
注意点②
積層型の型取りは1層づつシリコンの層を増やして作っていくのですが、
付加タイプシリコンの特性として表面が固まってしまってから次のシリコンを積層してもお互いが結合しないという点があります。
なので付加タイプシリコンをで積層する際は次のシリコンをかけるタイミングがとても重要になるということです。
かけたシリコンが固まりだして垂れなくなり、多少べたつきが残っている状態の時に積層していくということになります。
今回の付加タイプシリコンでの積層型取りはトータル時間は短かったのですが、かなり忙しく動いていました。
また次回も別の付加タイプを使ってベストな型作りを目指したいと思います。
そして型作りの仕上げにシリコンの上からジャケットというものを樹脂で作って完成になります。
成形作業
型作りが終わり型を開けて中を綺麗にしたら次は樹脂を塗り込んで成形をしていきます。
分かりにくいですが、型を前後で分割した状態になっています。
中の白い液体が今回形となる樹脂です。
型の全体に塗りこみが終わり固まるのを待っている状態です。
成形作業も基本的には型と同じように目的の材料を積層させて作っていきます。
この段階でシリコンの1層目を黒く着色した効果が見て取れるかと思います。
成形色を白っぽくしたかったので型の黒と対比で中の気泡や塗り残しを防ぎます。
(付加タイプシリコンは元々乳白色で透明に近い色をしていることが多い。)
そして成形されたものが出来上がりました。
粘土造形をしている段階で2種類のバージョンを作ろうと考えていたので2タイプ成形しています。
「go-Shintai ー御神体ー」と「Taṇhā ー喝ー」の2種類の造形アートになります。
まずは「Taṇhā ー喝ー」の塗装から。
塗装作業
次に色を塗っていく工程に移ります。
今回使用したものは、基本リキッドタイプのアクリル塗料で、部分的にタミヤカラー、Mrカラーなどで塗装しました。
少し色がついてきました。
リアルな肌感を表現するため、薄く希釈した塗料を何重にも重ねて塗っていきます。
ここでも積層的な作りになっていますね。
やはり何事もコツコツということでしょうか・・・
だいぶステップが飛んでしまいましたが、完成に近い状態です。
作業しているとつい写真を撮るのを忘れてしまいますね、ブログのために今後は頑張りたいと思います。
この特殊造形アートを作っている時期にちょうどトム・クルーズ主演の映画「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」が上映されていました。
それに登場する呪われた王女のそれぞれの目の虹彩が分裂して、二つになるという神秘的な印象にとてもインパクトを受けました。
そういうことで神秘的な印象を与える材料としてこの造形アートにも分裂した虹彩を取り入れることにしました。
この造形の目は義眼ではなく描いて表現しているのですが、分裂具合やお互いのバランス調整に少し手こずりました。
完成したものがこちらになります。
「Taṇhā ー喝ー」
次に、「go-Shintai ー御神体ー」の制作に取り掛かります。
またまたいきなり工程が飛んでしまいすみません(笑)
色を塗って、天然石で作ったアクセサリーを付け、和紙で服のような印象に見立てている段階です。
「go-Shintai ー御神体ー」バージョンの眼球は義眼を作って入れています。
私の好きな天眼石という天然石を厳選し、バランスやサイズ感が合うように樹脂で固めて制作しました。
こちらは別の特殊造形アート用に使用した眼球ですが、天眼石はこのような神秘的な模様が形成されています。
この特殊造形アートは前から使ってみたかった「和紙」を試す良い機会にもなりました。
個人的に和紙は好きでよく撮影の背景とかに使用していましたが今回初めて作品に使用してみました。
和紙の質感と模様は独特の印象があるので作品の空気感を作るのに適していました。
いろんな種類の白い和紙の見え方を実験中。
そして完成がこちら。
「go-Shintai ー御神体ー」
表面には世界最薄で製作された和紙を使用しています。
空気中に漂うほど薄く軽いので扱いが非常にデリケートでした。
この最薄の和紙を表面に覆うことで造形物としての素材感を和らげることが出来、さらに神秘的な印象に近づけることが出来たと思います。
以上、特殊造形アートの製作過程でした。
それでは! ーGoushiー
素晴らしいです
久しぶりに感動しました
徳島さん
嬉しいお言葉!ありがとうございます。
質問とかよろしいでしょうか?
シリコン型に流し込む、エポキシ樹脂などは
よく使うのですが
型の内側に塗って固める樹脂は
どのようなものをお使いでしょうか?
良ければ商品名なども
教ていいただけると幸いです
三淵さん
初めまして、遅くなり申し訳ありません・・・
薄く固めるのであればポリエステル樹脂(サンドーマ5595)などが一般的です。
原液はサラサラしているので厚みを持たせたい場合はキャボシル(Cab-o-sil)を混ぜての使用がおすすめです。
キャボシルは粉状のもので入れれば入れるほどペースト状に変化します。
この作品は売りましたか?
であれば価格はいくらでしたか?
美術とアート作品(まず用語の専門性に詳しくないのと日本ではカテゴリわけがあまりされていない気がする)の堺のような作品のように感じるのですが、より漫画やフィギュアよりの作品の場合、市場と言うものは存在しますか?
海外の方が日本よりマーケットは大きいですが、漫画やフィギュアよりの作品の価値は評価されているのか中々調べるのに苦労しています。
なかさん
返答遅れました。
この作品は販売していない状態です。
なかさんが感じておられるように確かにこの作品は美術とアートの境界を考えて作っていました。
私もあまり詳しい方ではありませんが、漫画やイラストっぽい表現の市場はあると思います。
ただ高額で販売出来るまでにはアーティスト活動としての一定のプロセスみたいなものが必要だと感じています。
漫画やフィギュア、イラストは大衆向けのものでしたのでアートに取り入れると初見では受け入れやすい導入口になると思っています。
作品の価値は一概に答えはありませんが、やはりここもアーティストとしての日々の活動をどう行なっているかで市場が無かったとしても評価される人はされている印象です。