絵が描けるということと 粘土造形 の技術は比例するのかその関係性について気になっていたのでまとめてみました。
まず私が見てきた中で、粘土造形が出来る人は大抵ある程度絵が描ける人が多いように感じます。
もちろん造形といってもいろいろな種類のものがありますが、ここではリアリティのある表現のキャラクター造形としておきます。
絵が描けることで粘土造形をする際、絵の技術はどのように活かされるのかをテーマに考えていきます。
絵が描ければ粘土造形も有利になるのか?
私が講師を務める特殊メイク特殊造形スクールではカリキュラムに粘土造形の時間を多く取り入れています。
今年で11期生になり、今まで200人近い生徒達を見てきました。
その中には粘土造形の経験はなくても、絵を描くのが上手い生徒も多くいます。
「粘土造形が出来る人は絵も描ける割合が高い」という仮説を立てるとするとその逆も少なからず成立することになると思います。
しかし実際に見て体験したことでは「絵が描ける人は粘土造形もある程度こなせる」という逆説が成立したことはほとんどありませんでした。
その中には絵のレベルが高い人と絵を描いた経験があまり無い人で、造形レベルに違いが見られなかったケースもありました。
なので一般的に見て上手に絵を描くことが出来るとしても、直接粘土造形に有利な基礎的技術ではないということが分かりました。
そこでまずは粘土造形が出来るとなぜ絵も描くことが出来るのかという疑問から考えていきたいと思います。
絵と造形の違い
絵を描くことと粘土で造形をしていく大きな違いは、
造形は立体なので3次元の奥行きを表現させなければいけないということです。
粘土造形ではこの360度の奥行きもしっかりと作り込む必要があるということです。
このそれぞれの部分の奥行きをいかに捉えられているかが粘土造形を行うための最重要ポイントであると思います。
私は幼い頃から絵が好きで、実際に描いたりいろんな絵を見たりして育ってきました。
そのなかには立体にしたら面白そうなものがあり、何度かチャレンジしたことがあります。
しかしいざ立体に起こすと絵では良く見えていても造形にしたとき、形として良いバランスや美しさ、影の入り方などで成立しないことがよくありました。
例えば正面からは良いバランスなのですが、斜めからや横から見るとバランスが良くなかったりと。
この違いは何なのか、隠れた原因があるのか当時は悩みながら造形していた時期があります。
もちろん技術不足のせいで立体に出来ないこともあったと思います。
そしてある程度技術が身に付いた今、改めて考えてみると立体として成立しなかった絵には造形にとってある重要な部分が描かれていなかったのです。
それはずばり、、、
正確な奥行き描写やその陰影を描く、いわゆるデッサン的な要素であります。
もちろん絵は2次元的なものなので想像して描かないといけない部分もありますので正確な奥行きの表現は不可能な事もあると思います。
私が注意する部分というのはその2次元で良く見えている形がそのまま3次元でも成立するとは限らないということです。
私が思う上手な造形とは奥行きの表現とそのバランスが取れたものだと考えています。
それに比べ絵の方は造形よりも自由度が高いので、奥行きを無視した表現でも悪い意味ではなく成立させることが出来ます。
(この自由な奥行き感は「絵」ならでは魅力の一つです。)
お気に入りの絵や2次元で描かれたキャラクターを立体化させたりするときには、
その絵に奥行きが表現されているかどうかまず確認することが重要です。
もし奥行きの表現がされていないものを立体にした時、キャラクターデザインが変わってしまったりする恐れが出てきます。
そして技術不足であるほど立体化させるのは至難の技になってくると思います。
造形のためのデザインを描く際にもデッサンを描くような意識で奥行きをしっかりと描き込んでいくことが大事になってきます。
造形に必要な絵の描き方
こちらの馬の絵ですが陰影を描かなくてもフォルムがしっかりと捉えられているので絵としてはシンプルですがレベルは高い方だと思います。
しかしこのような絵を描くことが出来ても陰影表現が無い場合、奥行きが重要である造形になるといざ作ることになると難しく感じるのです。
先ほどの絵より陰影が付いて立体的に見える絵です。
しかしこちらの絵も奥行きを表現しているように見えているだけで、
実際にそっくりに造形してみるとなかなか難しいものになると思います。
(デフォルメ造形であれば成立は可能。)
造形に必要な絵の描き方とは、形を面で捉え、陰影が細く表現されたデッサンのような絵になるわけです。
絵は表現として成立しやすい面がある分、細部や正確な情報などを誤魔化しやすい一面もあるので、
造形に絡む絵を描く時にはその注意と、本物の形を知ることが大切になってきます。
デッサンといえば私が専門学校へ通っていたとき、木炭デッサンのカリキュラムが組まれていました。
当時は造形だけやっていたくてデッサンの授業が退屈であまり力を入れていなかった記憶があります。
何事も技術を覚える初期の段階ほど、
デッサン等の基礎作りを学ぶことが億劫に思えてしまいなかなか手に付かなかったりするものではないでしょうか。
そして私はそのままデッサンを中途半端なままに、造形技術だけを求めていくスタイルになっていくのです。
造形力を身に付けると絵も上手くなる!
私は造形を始めて絵を描くことへの意欲が無くなっていったので粘土造形だけをこなしていきました。
私が幼い頃から描いていた絵はデッサン的ではなく、漫画的でむしろ奥行き表現の少ない絵を描いていました。
なので造形をやっていく中でも奥行きの表現には苦労していくのです。
私の場合奥行きに加え、キャラクターの骨格や筋肉の流れなどの基礎知識すらも当時億劫であったので(笑)、
生物的ではなく感覚とデザインよりの造形をよく作ってしまっていました。
感覚とデザイン的造形もやり続けているうちに上手な造形家と比べ、
さらに上手くなるにはやはりある程度の基礎作りの重要性に気付くときが来ます。
私はどんなことでも必要な重要性に気付くとそれに向かって猛進してしまう性格なので、
気付いた後は基礎作りだけに徹底していきました。
(私が行った基礎作りの方法はまた別の記事でも今後ご紹介していきたいと思います。)
そして基礎を学んだ後、たまたま絵を描く機会がありました。
描いてみるとなんと「自分はこんなに立体的に絵が描けていたっけ?」と思う出来事がありました。
もちろん上手な人から見ればまだまだレベルは低いですが、当時と比べると格段にレベルアップを体験しました。
専門学校以来絵は描いていなかったのに、造形で奥行きの捉え方を学ぶことで2次元の絵にも奥行きや陰影の場所がわかるようになったのです。
粘土造形が出来る人が絵もある程度上手に描ける理由の一つは3次元の奥行きを理解していることにあるのではと考えられますね。
描ける絵のジャンルによって造形に活かされる部分がある
最後の項目になりますが私が注目する絵と造形に最も関係してくる部分は、
描ける絵のジャンルによってそれぞれの利点があるという事です。
これは実験的な部分でもありまだまだ少ない経験則であるため全て言い切る事は出来ませんが。
私が幼少から描いてきた絵は奥行き、骨格、筋肉の組織等をあまり意識せず感覚に任せた絵を描いていました。
例えば陰影を描かない絵や漫画のようなキャラクター(種類はいろいろありますが)やイラスト的であったり、
リアリティより雰囲気や線や形の格好良さ、演出的な描き方を重視した描き方です。
私が初めて造形をしたときはリアリティに関してはとても低いレベルでしたが、
形のラインを演出的にどこを直線的にしてどこで曲線的にすれば格好良さを表現することが出来るのかを、
絵を描いてきたことによって無意識的に理解していました。
なのでリアリティが足りていなくても絵を描いたことが無い人よりは造形を少しは上手く見せれていた実感があります。
ただ今思えばリアリティは私にとって必然的な要素なので当時のものはただの誤魔化しに過ぎないのです。
造形にとってリアリティ要素無くして一定以上の上達は難しいと思っています。
私が描いてきた絵のジャンルとは漫画、ファンタジーイラストなどです。特にアクション系漫画が好みでした。
(漫画を描けるほどのレベルではありません。)
ファンタジー系では「Magic The Gathering」というカードゲームイラストが魅力的で現在でもその世界観に影響されています。
経験上このような絵を描くことは造形において陰影のメリハリ、輪郭、各部の線の形の流れを調整する技術が身に付くのではないかと考えています。
漫画やイラストなどのキャラクターはリアルな形をデフォルメしたり、美化したり、アレンジする要素が強いです。
私の場合は「格好良い」「神秘的」要素がある絵が好きだったのでさらにそのジャンルに絞ってよく描いていました。
そうすると「格好良い」の場合いろんな格好良いと思うものを描いていくと、
例えばどこに影が入ると格好良く見えるのかが段々と分かってくるようになります。
もちろん他にも輪郭であれば直線的にする部分や曲線にする部分などのどこをどういうラインにすると良くなるのかも分かってくるものです。
絵のジャンルがファンタジー、空想的であれば、クリーチャーやモンスターなどがどのようなものかが分かってきますので、
そのジャンルの造形に関しては潜在意識の中で今までの知識が掛け合わされ、
いろいろなクリーチャーデザインや奇想天外なアイデアが思いつきやすくなります。
デッサンが得意であれば、立体物の形を3次元で捉えることが出来るので、
粘土造形をする上でリアリティとはどのような形なのかを意識しやすく、立体的、奥行きなどを理解しやすい傾向にあると思います。
デッサンが好きな場合、リアリティを重視するので空想的な形があまり受け付けられなくなるパターンもあります。
そのため奇抜なデザインを生み出すアイデアにストッパーがかかることも経験してきました。
絵のジャンルはまだまだ沢山ありますが、それぞれの特性が造形にも活きてくるのは確実だと実感しています。
そのジャンルは単に「好きなこと」「興味があること」でもあるので、
その部分を伸ばしていくことによって新しいオリジナル造形デザインを生むアイデアになるかもしれません。
以上が私がこれまで経験してきた絵と造形の関係性ですが、
どちらもとても大きなアートなテーマですのでまだ発見出来ていない部分や足りていない部分もあるかもしれませんが、
一つの考え方としてこのブログを読んでいる方にも共有出来ればと思っています。
もし今までに描いてきた絵があるのであればその技術を造形に取り入れることにより、造形力が飛躍することがありますので、
さらにそれを特技として認識することが出来れば自身の強みとなり武器となっていくと思います。
また新たに発見があれば新しい記事にするか、こちらに追記していくことにします。
ではまた考えるシリーズで。
こちらも合わせて。
それでは! ーGoushiー
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