みなさまお久しぶりです。
本日の内容はキャラクター造形における演出の仕方がスカルプターによって違うということを書いていきます。
昔からこのことをよくその人の「スタイル」や「個性」と言っていましたが、私自身今は「演出」とよく定義しております。
意図的ではないこともあるので個性の方が幅広いかもしれませんが。
私はキャラクター彫刻を「XY軸バランス」、「Z軸の奥行き」、「演出表現」と大きく3つのカテゴリーに分けて考えています。
この演出部分では主に、格好良さ、奇怪さ、派手さ、可愛さ等のまさにそのキャラクターをさらに印象付けたり誇張するような付加のことを言います。
なので演出表現は無くてもキャラクターは成立します。
演出をするかどうかの判断基準はその目的にもよります。
あまり目立たないモブ的なキャラクターには演出表現を少なめに調整したり、
主役級のキャラクターの場合はキャラをわかりやすくさせるために演出で誇張したりします。
演出表現は基本的に入れれば入れるほどリアリティーから離れてファンタジーな形になります。
簡単に言うと、嘘だけど格好良く見える形です。
ファンタジーは人が作り出した偉大な技術ですよね。
サピエンス全史では、ホモサピエンスの一番優れた能力は存在しないものを信じることが出来ることと載っていました。
そこが大元であるとするならなかなか感慨深いですよね。
それでは4人のスカルプターを紹介しながらその演出表現を学んでいきたいと思います。
1:強コントラスト&デフォーメーションの Jordu Schell
まず初めに、私が学生時からお世話になっているJordu。
彼はかなり多くのキャラクターを作っていてどれもJordu色の強いものですよね。
Jorduの演出表現としては、、、
・それぞれの形がリアルよりもかなり強いコントラストで造形されている点
・顔の基本形を最大限(歪になりすぎないように)変形させている点
この2つの特徴が主にあります。
コントラスト
コントラストはデッサンでいう真っ白と真っ黒を作るということです。
スーパーリアルなものはよっぽど光が当たっていない限り、真っ白と真っ黒は無いはずです。
このコントラストを上手く強めていくことでそのキャラクターに凄みと格好良さが現れます。
私もこのコントラストには一番意識していてコントラストが上手いものはワクワクしますね。
コントラストを上手く配置するには顔全体をみてどこか一箇所に陰影がかたまり過ぎていないかどうか、
真っ白から真っ黒まで陰影の濃さの順番バランスは合っているかどうかで判断していきます。
デフォーメーション
デフォーメーションとは形の変形のことです。
Jorduのキャラクターにはグロテスクでもあり愛らしくもある独特のデザインですよね。
顔の形はどこをどう変形させるかで様々な表情を生むことが出来ます。
彼ほどこの変形パターンバリエーションを試した人はいないのでないかというほど成功パターン数があります。
Jorduの存在を知ったのは私が18歳頃のことで、そのころは日本の特殊メイク・特殊造形業界ではまだここまで作品数を発表している人はいませんでした。
当時はこの変形パターンが衝撃的で興味深く、キャラクターのほとんどをファイリングして学んでいました。
(当時はまだファイリング時代)
Jorduはこのコントラストとデフォーメーション演出を使いこなす達人です。
2:スーパーダイナミズムの Steve Wang
この方は誰もが知るレジェンドスカルプターです。
有名なあのプレデターを20代前半で作った(たしか)才能のバケモノ的存在(笑)
数々の人気キャラクターを作り上げているのでデザインは色々あるのですが、
キャラクターの格好良さにおいてはNo1の演出力だと思います。
そして彼が特殊造形キャラクターを格好良く仕上げる道筋を作った人物の一人でもあります。
そんな格好良さの正体はなんと言っても「形をダイナミックに流す」という演出技術です。
ダイナミックとは、動的・力強さ等の意味があります。
上の写真の彫刻はリアリティーを確保しつつ基本形を変形させて勢いのある流れを作っています。
これは骨格や肉感のそれぞれの角度、それぞれの繋げ方を工夫することでダイナミズムを生んでいます。
ダイナミックさは造形において必要不可欠で、もしかするとこの要素だけでいろんなことが解決してしまうほどストレートに強い演出表現です。
「躍動感」と言っても良いのかもしれません。
作っているのは瞬間的な表情なのですが動きが感じ取れるとても美術的なものとも言えますよね。
Steveには他にもいくつかの演出技術がありますが今回はこのダイナミズムのみを取り上げさせてもらいます。
彼の造形を見るたびに新しい発見があり、常に成長させてくれる存在です。
3:ビューティーオブストリームラインの Akihito
続いてはよく交流させて頂いてますアキヒトさん。
引用:Studio AKI
キャラクター造形の格好良さにおいては他と引けを取らないトップ集団のお一人です。
アキヒトさんの演出能力はなんと言っても「流線美」の極地です。
リアリティーの基本形をただ変形するだけでなく、全体を通してそれぞれの形の輪郭を美しくなるよう極めてバランスの取れた配置で作り上げています。
本当にこのバランス力は凄まじいです。
形の流し方と言う点ではダイナミズムとも似ている部分もありますが、
Steveさんのダイナミズムが大胆だとするとアキヒトさんのダイナミズムは繊細で華麗なものに感じますね。
もしかするとSteveさんの場合骨格と肉感中心のダイナミズムであり、アキヒトさんは変形させたファンタジーの形中心をダイナミックにすることで両者に違いが出ているのかもしれません。
(キャラクターにもよりますが。)
私も格好良い要素のキャラクターが好きなので、アキヒトさんにはさらにもっとキャラクターを生み出していって欲しいですね。
「Wind Messanger」
アキヒトさんの作品の中で私が一番好きな造形品です。
当時作品発表されたとき私は興味を一瞬で貫かれました笑
4:格好良さ2.0エレガントフォルムの Sebastian Lochmann
引用:Hatch EFX
セバスチャン、彼の彫刻に出会ったのも20歳前後のことでした。
当時でもいろんな格好良い造形を見てきましたが、彼の演出は他に無い新しい格好良さがありました。
セバスチャンの彫刻には上品で気質の高い印象を受けるのが特徴だと思っています。
彼の演出を真似てみようとトライしましたが取り入れるにはなかなか難しいものがありました。
この独特な印象を受ける要因として、、、
・独特の平面的な肉感の表現方法(平面的だがリアルさも成立させている)
・上品に見える顔のパーツ配置(作るキャラクターを通して共通するバランスあり)
・他のスカルプターがやっていない新しいディテールの仕上げ方(新しい道筋。だが難易度高め)
セバスチャンの理論的な組み立て方もあると思いますが、意図的でなく自然にこなせる格好良い演出の才能があるのだと感じます。
彫刻作品としてのオブジェだとすると私は彼の彫刻が一番所有欲が刺激されます。
骨格と肉感のみだけでも上品で格好良い、、、ダンディズムと言うのでしょうか、、、
今まで見てきた格好良さに対して、格好良さ2.0を勝ち取った印象を持つスカルプターです。
偉大な演出技術を取り入れよう
如何でしたでしょうか。
皆さんはどんな特徴のある演出表現を使っていますか?
私の場合は陰影のコントラストと、骨と肉の流線美を意識しています。
ここにダイナミズムを加えたいのですがまだまだ手懐けられないのが現実です。
格好良いと感じた演出表現は、
リアリティーをどう変形させているのか、
どこまで変形させているのか、
そして各面のパーツのサイズ感などを分析していくと自分の彫刻にも吸収出来る部分が出てくるかもしれません。
いろんな表現を取り入れて自分なりにミックスすることでまたさらに新しい演出が生まれる可能性もあります。
スカルプターにとって新しい彫刻の道筋を発見することは一つの夢でもありますよね。
まだ構想中なだけですが、例えば10人くらいのスカルプターを集めて同じでデザインのものを一斉に作り、
それぞれの演出の仕方を見てみると面白そうだなと思っております。
それでは皆さま、良い造形ライフを! ーGoushiー
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